ロボットが人間を殺した日

 夜中に3人のイラク人が道路に穴を掘り爆薬を埋め、起爆用の導線を轢いた。それを見ていたのは米軍無人偵察機の「プレデター」だ。プレデターは、ミサイルを発射。逃げる間もなく3人のイラク人は跡形もなく吹き飛んだ。

 これはNHKスペシャル「危機と闘う・テクノクライシス 軍事用の戦慄~ロボット~」で報じられた映像だ。(古い話で申し訳ないが、ビデオのタイムスタンプは、2006年7月25日となっているが、たぶん関東地方のみの再放送)。

 番組では「ロボットが人間の命を奪った瞬間です」と報じていた。だが、人間の命を奪ったのは、プレデターから送られてきた映像から武装勢力だと判断し、攻撃の指令を出した米軍(人間)だ。プレデターは衛星回線で米国本土にいながら、コントロールすることも可能。操縦を担当する人間とミサイル発射などの攻撃を指示する二人一組で行われる。もちろん、あらかじめ飛行データを入力しておけば、人間が操縦することなく、自律的に飛行することも可能だ。

 アイザック・アシモフの「ロボット工学の三原則」を今更ながらに引用すると……。

ロボット工学の三原則

第1条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第2条:ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第1条に反する場合は、この限りではない。
第3条:ロボットは、前掲第1条および第2条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

ロボット工学ハンドブック、
第五十六版、西暦2058年

 今、この三原則を頭に刷り込んで欲しいのは、ロボットよりも、「ロボット」を「人間」に置き換えた「人間の三原則」だ。

 筑波大の山海嘉之教授らが開発したロボット・スーツ「HALⅢ」をテレビなどで見た方も多いと思う。HALⅢは筋肉電位を読み取り、人間と同じ動きをするロボット・スーツで、人間の10倍程度の力を発揮することができるらしい。身障者の失われた機能を補うだけでなく、力仕事が多い介護といった福祉面での期待も高まる技術だ。開発のスタートは10数年前に遡るが、当初は公にすることなく進んでいたという。ところが米国国防総省からコンタクトがあったそうだ。

 米国国防総省が開発したロボット・スーツは、50キロの兵糧を背負っても、苦にならずに行軍できる、軍事目的のものだ。油圧でコントロールされている。

 この他にも、人間が投げるより、遠くに正確に手榴弾を投げ込む、キャタピラ移動の小型ロボット。銃声から狙撃者の位置を瞬時に割り出すロボット(すばやく、ロボットが反撃することを可能にしている)も番組で紹介されていた。

 日本では、産業用ロボットの保有率は世界一であり、ホンダの「アシモ」をはじめ、さまざまな用途のロボットが研究開発され、実用化されつつある。しかし、あらかじめマップデータをインプットした、農薬散布用の自律型の小型ヘリコプターは、そのまま、生物化学兵器となりうるし、民生用のテクノロジーが軍事テクノロジーに転化されるクライシスをこの番組は警鐘している。

 私がティーンエイジャーだった頃「ベトナム戦争」でジャングルでのゲリラ戦に手をやいた米軍は、広範囲に「枯葉剤」を散布した。それが、後に多くの奇形児出産という悲劇を見てきた。

 湾岸戦争、コソボ紛争、イラク戦争で米軍が使用した「劣化ウラン弾」は、少なくとも、90万発、300トンに及ぶと言う。アメリカからしてみると、核燃料の廃棄物として、処理に困っている劣化ウランを使った「劣化ウラン弾」は、戦車の装甲を一発で撃ち抜く、非常にローコストで高効率な兵器だ。これが国際間で非難を浴びることをわかっていながら、当面、手放すわけにはいかない。自国の兵士を含め、民間人への影響などは、その経済論理の前には吹き飛んでしまっている。

《参考》
劣化ウラン弾による被害の実態と人体影響について

劣化ウラン弾は、45億年の半減期を持つ放射性物質であり、環境中にまきちらされれば、その影響は極めて広範囲に及び、長期間持続します。

戦史研究(劣化ウラン弾)

1.粒子の飛翔、アルファー線を照射するウラン粒子は帯電し空気中の塵とくっついて密度が小さくなり飛翔範囲はさらに大きくなる。

2.半径5ミクロンのウラン粒子の大気中の降下スピードは、毎秒0.82センチしかない。爆風と熱で吹き上げられた微粒子は僅かな風で数キロの範囲に簡単にばらまかれる。

 「サダム・フセインが見つからないといって、サダム・フセインがいないわけではない」「私はイラクには大量破壊兵器があると思っている」とイラク戦争の大儀を説き、「自衛隊の行くところが非戦闘地域だ」と自衛隊を派遣した小泉首相に代わり、憲法改正、集団的自衛権の行使を掲げる、なにやらキナ臭い安倍晋三内閣が誕生した。

「404 Blog Not Found」の「 民主主義とかけてWeb2.0ととく」の記事で、小飼弾氏の民主主義の解釈は

「民主主義そのものを解釈する権利が、全ての民に存在するとする主義」

としている。ロボット工学三原則は、人間が一方的にロボットに組み込んだ原則なので、三原則そのものを改変することはできない。ロボットにとっては民主的ではないのだ。しかし、アシモフの小説「ロボットと帝国」では、この三原則に「第零条」を追加しようとする話がある。

第零条 ロボットは人類に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人類に危害を及ぼしてはならない。
第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。ただし、あたえられた命令が、第零条に反する場合は、この限りでない。

 もし、アメリカがロボット工学三原則に第零条を追加するとしたら、

第零条 ロボットはアメリカに損害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、アメリカに損害を及ぼしてはならない。

と書き換えるだろう。そうすれば、アメリカの損害になると判断したならば、他国の民ばかりでなく、自国の兵士だって殺すことが可能だ。これがアメリカの民主主義というものかしら。

日本の憲法第九条は「国際問題を解決する手段として武力を行使しない」という、世界でも稀な平和憲法だ。しかし、占領軍から一方的に押し付けられた憲法だとして、改憲論議も盛んだ。もちろん、憲法が定める手続き、民主主義のルールとして憲法を変えることはできる。

しかし、忘れてはならないのは、「住民基本台帳」いわゆる「住基ネット」を施行したときに、これは「個人情報保護法案」とセットだとしていた。しかし、その担保となるべき個人情報保護法案は、国が個人の情報を勝手に使うことを禁止する法案ではなく、マスコミの規制が目的だったことがわかった。実際に、この個人情報保護法案を盾に情報公開を拒んだり、犯罪加害者の氏名公開は警察が決めるなど、個人情報保護という言葉のイメージとはまったく違う、国の情報管制という方向に進んでいるように見える。

 間違っても「戦争のできる美しい国、日本」にしてはならないし、集団的自衛権を行使し、世界各地で戦争を繰り返しているアメリカとのつきあいで戦争に引き込まれる事態にならないように願うばかりだ。

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