■[Flash]ラングトンの蟻

1980年代、「複雑系」科学の研究者たちが集まったロスアラモス研究所。クリストファー・ラングトン(Christopher Langton:1949年~)も、ロスアラモス研究所で「人工生命(Artificial Life)」の研究をしていた。


※出典:単純な脳、複雑な「私」 (池谷裕二/著)

【ラングトンの蟻】「Start」ボタンを押すと「蟻」は、画面内を動き始める。でたらめに動き回るが、カウンターが「10000」を超えたあたりから、突如、蟻は、ある方向へ向かい列を作り始めるのだ。一見、蟻の動きはランダム(無秩序)に見えるが、ある単純な法則に従っている。ラングトンが蟻に与えた命令(動きのルール)とは……。

で、ラングトンが蟻に与えた命令(ルール)は、以下のようなもの。

ラングトンの蟻(ルール)

(1)自分がいる場所(セル)が白だったら、黒く塗る。セルが黒なら、白く塗って、進行方向に一歩進む。
(2)進んだ場所が白だったら、右を向く(90度右回転)。黒だったら左を向く(90度左回転)。(1)に戻る。

たったこれだけのルールで、冒頭のFlashのように複雑な模様を描き出す。爺の作成したFlashでは、オリジナルの白黒ではなく、蟻が通った跡と未踏の部分に色をつけて区別した。

「ラングトンの蟻」では、10000ステップを超えたあたりから、これまで無秩序な動きだったものが、一方向に進み始める。 出典元の「単純な脳、複雑な「私」」(池谷祐二/著)では、この現象を「創発」と呼んでいる。また、前記事で紹介した「数学の秘密の本棚」(イアン・スチュアート/著)という本では、これを「ハイウェイ」と呼んでいた。

「Fast」モードでは、なんのことだかわからないと思うが、PixelSizeを大きくして、「Slow」モードにすると、蟻がルールに従い機械的に自分の回りのセルを塗り替えていく様がわかる。蟻は意味なくランダムに動き回っているように見える。退屈なループと思いきや、ある時を境に、まるで意思を持ったように、ある方向に進み始めるのだ。これは、ホントに驚き!

蟻は、自分が作り出した環境(セルの塗りつぶし)によって、自分の行動が決定される、たとえば出発点の位置に戻ったとしても、もはや、セルの色が自らの行動によって変更されているので、違った方向へ進む。つまり、蟻の行動は、環境からのフィードバックが行われていることになる。このフィードバックによって、蟻は予想外の行動をとる。

オリジナルの「ラングトンの蟻」では、「ハイウェイ」、あるいは「創発」は、無限の彼方に伸びていくのだが、爺はその先を見たいと思った。というのは、「ラングトンの蟻」の世界にあらかじめ、ランダムに生成された黒い点を作っておいても、必ず「ハイウェイ」、あるいは「創発」は起きる(?)らしい。

だったら、ランダムに黒い点を打つ代わりに、蟻の世界の上下左右をつなげてしまえばいいと思ったわけ。世界の大きさ(PixelSize)によって環境は変化するけれど、それでも、「ハイウェイ」や「創発」が起こることは、ある程度、確認することができる。

不思議なのは、とゆーか、爺が驚きなのは、「ラングトンの蟻」のルールに従う限り、同じところをぐるぐる回って、環境をそれ以上変化させない、無限ループに陥ることがないことだ。反証、あるいは数学的に証明することができるという人は、ぜひ、爺に教えてほしい^^; たぶん、説明されても、爺にはわからないと思うけれど……。

で、紹介が遅れてしまったけれど、「ラングトンの蟻」のFlashを作るにあたって参考にした「単純な脳、複雑な「私」」なんだけど、これが、じつに面白い内容。著者の池谷裕二氏は、東京大学・大学院薬学系研究科で脳神経、とくに海馬の研究をしている薬学博士。本書は、20年前に卒業した母校の高校生たちにした脳科学の講義の内容がベースになっている。とてもわかりやすい言葉で脳科学の最前線を語ってくれているのだが、講義を受けている高校生でなくとも、本書を読むと、爺でさえ「脳っておもしろい!」と目をきらきらさせてしまうほどだ^^;

「ラングトンの蟻」は、本書の第4章「脳はノイズから生命を生み出す」で紹介されている。我々の脳はうまくノイズを使っているらしい。ノイズといえば、情報のじゃまもの、ないほうがいいと思いがちだが、シグナルの「ある/なし」、または情報が「伝わる/伝わらない」で検出するとき、あまりにも弱いシグナルは検出することができない。しかし、情報にノイズを加えると、弱い情報でも検出できるようになるという。この現象を「確率共振」と呼ぶらしい。

確率共振

※出典「単純な脳、複雑な「私」」(池谷裕二/著)

ノイズの発生源は「脳のゆらぎ」。脳は自ら作り出したノイズをエネルギーに代え、フィードフォワードしていく。つまり、状態が次の状態に影響を与えるような形で伝搬していく。脳にはノイズを取り除いたり、整える働きもあって、規則を作りだす。脳の回路を通過していくことで、ノイズは秩序に変換されていく。

個々のニューロンは緻密な機械だが、機械的作業を繰り返していると、無秩序から秩序への転換「創発」が生まれる。とゆーか、勝手に作り出してしまう。

「ラングトンの蟻」は、素子が環境を変化させる、環境によって素子が変化を受けるという、相互作用によって、単純なルールでも「創発」が起きる例として紹介されている。確かに、最初はランダムに動き回っているように見える蟻が、突然、ある方向に進み始めるときは、まるで何かに突き動かされているようにも見えるよね^^;

≪参考≫
単純な脳、複雑な「私」 動画特設サイト
http://www.asahipress.com/brain/

単純な脳、複雑な「私」
単純な脳、複雑な「私」
池谷祐二/著

朝日出版社
(2009/5/8刊)