■書籍:キュートな数学名作問題集

 「コマ大数学科147講:正八面体」の記事中で、先走って紹介してしまったけれど、もう一度、ちゃんとエントリーを立てて、小島寛之センセの「キュートな数学名作問題集」を紹介しておく。

 でも、この本は問題集なので、ネタばらしになってしまっては、小島寛之センセに申し訳ない。そこで著者のブログ「hiroyukikojimaの日記」にも公開されている、お試し問題のFlashを作ってみた。

問題:上のA、B、C、Dは、お化け3匹と人間1人からなります。それぞれの証言から、誰が人間かをあててください。

 爺が想像する、お化けは、のっぺらぼうとか、ひとつ目小僧とか、三つ目がとおる(手塚治虫の漫画^^;)だったので、目の数は、そんなに多くはないだろうということで、適当に0~3の数を当てはめたら、すぐにできちゃったけれど、もちろん、「数学」を使えば、迷うことなく、明快に解くことができる^^;

A、B、C、Dの目の数を、a,b,c,dと置き、それぞれの証言(自分以外の目の数を足し合わせた数)を文字式にすると、

A:b+c+d=6 …… (1)式
B:a+c+d=5 …… (2)式
C:a+b+d=4 …… (3)式
D:a+b+c=3 …… (4)式

……という具合になる。難しく言うと、4未知数の4連立方程式なんだけれど、小島センセによると、「すべての未知数の係数に平等性がある連立方程式は、すべての方程式を辺々ごとに加え合わせてしまえばいい」らしい。

 つまり、左辺と右辺をそれぞれ、全部足し合わせちゃうわけね。すると、

3a+3b+3c+3d=18

両辺を3で割ると、

a+b+c+d=6 …… (5)式

この式から、それぞれの証言の式を引けばいい。

A:(5)式-(1)式=6-6=0
B:(5)式-(2)式=6-5=1
C:(5)式-(3)式=6-4=2
D:(5)式-(4)式=6-3=3

 小島センセは「Cの目が2個だから、人間だとわかるわけではない。目がふたつのお化けは、河童や、猫娘、座敷わらしなど、たくさんいる。A、B、Dがお化けとわかるから、消去法によって、人間だとわかる」と言う(爺は、勝手に「立つんだ、ジョー」と叫ぶ、丹下段平を思い描いてしまったが、そんなことは、どーでもいい)。

 以上を踏まえれば、いくらでも類題を作ることはできる。

問題:オパビニアの目の数はいくつか?

 ただし、それが、良問になるとは限らない(それ以前に、目の数にこだわる必要は、まったくない><;)。

 本書には、小島センセが長年に渡って集めてきた、「キュートな問題」や「ステキな解法の問題」が、いっぱい詰まっている。たんに数学の名作問題を解くことだけではなく、どこが「キュート」なのか、どこが「ステキ」なのか、「要するに、自分が惚れているオンナのどこがステキかを、迷惑なくらいに語りまくっちゃう困った男の情動と同じなのである」と、自身がブログで書いているように、そんな小島センセの熱き想いのエピソードを読むことも、爺の愉しみだ^^;

キュートな数学名作問題集
キュートな数学名作問題集

小島寛之/著
ちくまプリマー新書

解法のスーパーテクニック
解法のスーパーテクニック
高校への数学

小島寛之/著
東京出版

 初版が発行されたのは、平成元年(1989年)、20年も前のこと。爺が手にしているのは、平成19年の第18刷。およそ、1年に1回増刷され続けている超ロングセラー本だ。本書は、中・高生に向けた「高校数学」の問題&解法集というべきもの。爺は「図形編」や「数式編」の問題をすべて解いたわけではない><; 爺が「おもしろい」と感じるのは、たとえば、「数学編」の見出しを拾ってみると、

マイナス世界を旅する時
解き放ち、そして引き戻す
無理数洞窟の冒険
Xを追い詰めろ
"曲がった"現世の分析器

……どうだろう、およそ、数学の「参考書」らしくない見出しタイトルだよね。爺は、こういった、小島センセの文章を読むのがじつに愉しい。「数学」というと、無味乾燥な世界で、情が入り込む余地がないほど、論理的で非情なイメージを抱くけれど、なぜか、小島センセの文章を読むと「生身の数学」を感じるんだよね。それは、塾講師をしていたこともある、小島センセ自身の体験とも無縁でないはず。「要するに、自分が惚れているオンナのどこがステキかを、迷惑なくらいに語りまくっちゃう困った男の情動と同じなのである」を中学生に対しても、語っちゃうところが、小島センセらしいところなのら^^;

数学ワンダーランド
数学ワンダーランド
―高校への数学

小島寛之/著
東京出版

 こちらは、平成7年(1995年)の発行、爺の手元にあるのは、平成20年(2008年)の第8刷。小島センセの本領発揮で、この本も、見出し項目がヘンだ^^; その中で、爺がもっとも気に入っているのが「数学だってストーリーが必要だ」という見出し。爺は、常々、「数学の問題は、時としてシュールだ」と言ってきた。記号を用いた文字式は、抽象的だが、文章題になると、途端に具体的になり現実味を帯びてくる。しかし、数学の文章題は、現実離れしている問題も多い。ついつい、題意ではない、余計なことをいろいろ考えてしまう^^;

 小島センセは「文章題」にも、すごくこだわりを持っている。それは、この「数学ワンダーランド」から「キュートな数学名作問題集」まで、一貫している姿勢だ。

 小島寛之センセの「数学だってストーリーが必要だ」という言葉は、なにも文章題に限ったことではないかもしれない。爺の勝手な思い込みだが、村上春樹の言う「物語の力」と共通する部分がかなりあるんじゃないかと思う。3次方程式や、4次方程式を解くには、虚数というフィクション(物語)の力を借りなければならなかったからだ。数学のかなり本質的な部分で、物語の力を必要としているんじゃないの?