■「10歳の壁」を乗り越えろ

 前エントリーの「コマ大数学科」で、「そろばん」のように手を使ったり、「九九」のように声に出して唱えることを繰り返し反復練習することで、脳の「海馬」を通さず、体で覚えることを書いた。ちょっと、書き足りない部分があったので、もう少し続きを書く。

 少し前から、児童の学力不足が叫ばれるようになり、「百マス計算」が注目されて、多くの学校でも採用されている。「百マス計算」は、簡単な足し算などをすばやく計算し、手を動かして訓練する。慣れるに従って、考えるというよりも、手が勝手に動くという感じである。

 ところが「百マス計算」のスピードを競うあまり、ある児童たちは、「裏ワザ」ならぬ、百マス計算の「攻略法」を発見する。

 これは、だいぶ前に放映された、NHK総合のクローズアップ現代「“10歳の壁”を乗り越えろ」で紹介されていたもの。ここで言う「10歳の壁」とは……。

 小学校4~5年生になると、算数の授業についていけなくなる児童がぐんと多くなるらしい。小学4年までは、授業についていけない児童の割合が9%程度だったのが、小学5年になると、20%近くに跳ね上がってしまうそうだ。番組では、これを「10歳の壁」と呼んでいた。

 なぜ、小学5年になると、算数の授業についていけなくなる児童が増えるのか。それまで「数」といったら、「10」や「100」など二桁や三桁だったのが、いきなり「億」などの単位が登場する……というのが、ひとつの要因らしい。桁が大きすぎて、イメージが掴めないのだと言う。もうひとつの要因は「文章題」だ。計算は得意だけれど、「文章題」は苦手という児童は、かなりいるとのこと。

 計算は得意だが、「文章題」は苦手という児童は、一桁の足し算や掛け算を、反復練習によって体が覚えていて、考えることなく、結果を求めることができる。ところが「文章題」になると、「考える」ということをトレーニングされていないので、どう考えたらいいかわからず、「考える」ことを放棄してしまうのだと、東京大学教授の佐藤学さんは、番組で述べていた。

 最初に、「百マス計算」に対する攻略法を考えた児童には敬服するが、毎日、反復練習してタイムを競っていたら、誰でも思いつきそうな感じもする。この方法は、確かに効率的で圧倒的にスピードは向上するが、そもそもの計算を反復練習する……という意図からは完全に外れてしまっている。「結果」だけを求めて、その「過程」を飛ばしてしまったら、いくら、この方法で練習したとて、意味はない。

 では、「考える力」を養うには、どうしたらいいか? とくに「文章題」などの場合は、「コミュニケーション能力」を高めることだと、前述の佐藤学さんは言う。親が子供に「勉強しなさい!」というのは、命令で、コミュニケーションではない……というけれど、家事や仕事で忙しい親にとってみれば「今、学校で何を習っているの?」などと、言っていられる余裕はないのかも……。

 爺は、なんとなく世の中が「結果」だけを求め過ぎた結果(^^;)なんじゃないかと思う。逆に「考える力」が身についていないと、コミュニケーション不全の状態が起こるんじゃないかと思うんだよね。

 爺が子供の頃、「勉強しろ」なんて言われたことがない。教育には無関心でほったらかしだった。近所の子供たちと遊び呆けていた。でも、爺が小学4~5年のときは、自分より年上の中学生や、年下の小学校低学年の子供も一緒になって遊んでいた。

 今の子供たちは、学校の同学年の友達や、学力も拮抗する学習塾の友達など、狭い範囲に限られるような気もする。

 別に爺の「昔はよかった」的な懐古を言いたいわけではない。「考える力」をつけるため、「教え合い」を授業に取り込んだ学校もある。まず、相手に説明するためには、自分が問題を理解している必要がある。さらに、相手に教えるためには、相手がどこでつまづいているのかを理解することが必要だと気付くのだ。

 また、ある学校では、文章題を絵や図にして考える授業を行っている。問題を抽象化して、数式や、文字式に形を変えると、効率的で機械的な操作を行うだけで、「結果」を求めることができる。でも、それは、イメージが先にあるべき。

 小島寛之センセの「算数の発想」は、抽象的な「数学」ではなく、具体的な「算数」のイメージ力を説いた本だが、「考える力」の根本にあると思う。

 まず、「考える力」があってこそ、具体的な事柄を抽象化することができる。過去記事の「書籍:算数の発想」でも書いたが、小学校で習う、「つるかめ算」は、中学になると、文字を使った方程式になる。中学や高校で習った、一次方程式や二次方程式は、大学に入ると、より一般化した、n次方程式になる。さらに、中学で習った一次方程式は、線型代数の行列式で表すことができ、より抽象化した、これまで習った数学を俯瞰する概念として、理解できるようになる(爺は、まだ理解できていないけれど><;)。

 でも、いきなり「結果」を求めてはいけない。思考の「過程」こそが必要なのら^^;(まぁ、誰も、今さら爺に「結果」を求めていないので、その点では、今の小学生よりも、ずっと気がラクだ^^;)

“■「10歳の壁」を乗り越えろ” への2件の返信

  1. 非常に面白いブログですね。
    たけしのコマ大数学ファンなのですが、
    放送枠が深夜のため、見逃すことの方が多いです。
    このブログで過去問を振り返ってみます。
    ありがとうございます。

  2. もみじさん、コメントありがとうございます。
    このブログを始めるきっかけとなった「たけしのコマネチ大学数学科」ですが、気楽な気持ちで始めてみたものの、まさか、こんなに長く続く番組になるとは、思ってもいませんでした^^;
    今後とも、ごひいきにお願いします。

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