■書籍:爆笑問題のニッポンの教養「脳を創る男 合原 一幸」

脳を創る男
脳を創る男 合原 一幸
(爆笑問題のニッポンの教養 27)

太田 光/田中 裕二/合原 一幸/著
講談社 (新書 2008/10/21)

NHKで番組放映されたのも、新書で出版されたのも、かなり前のことだけれど、今さらながらに紹介してみるなり。

 爺にとって、合原一幸センセ(東京大学 教授)は、放送大学の「数理モデルとカオス」(’03年度の製作なので、現在の講義にはない)のゲスト講師としても、馴染みのある存在だった(もちろん、爺は放送大学の生徒でもないし、ただ、放送を見ていただけ)。でも、爺は、なぜか「カオス」という言葉に心惹かれるんだよね。

 番組では、爆笑問題のふたりが合原一幸センセの研究室を訪れるわけだけれど、なんか、太田光とは、話がかみ合わない部分があった。合原センセは、「カオス」のおもしろいところを早く説明したいが、その前段階でツッコミが入るという感じだった。

 本書に「カオスマン」という人の形を模した二重振り子が登場する。振り子の胴体の先に、もうひとつ、手と足の振り子をつけたものだ。単振動の振り子については、過去記事「世界を読みとく数学入門」で紹介したけれど、振り子の先に振り子をつけただけで、そこは、もうカオスの世界なのら。

 上のFlashは、Adobe Flash CS4の「ボーン:IK(インバース・キネマティック)アーマチェア機能」を使って作成したもの。合原一幸センセの手や足をドラッグすると、ポーズを変更できる(合原センセごめんなさい><;)。

 単振動振り子の次は、二重振り子のFlashを作成して、爺は、本書を紹介しようとしたのだが、前述したように、振り子の先に振り子をつけるだけで、世界は一変する。二階微分やら、ラグランジュ運動方程式やら、ルンゲクッタ法やら、思いのほか、爺には手に余る複雑怪奇な世界がそこにあった><;

 本書には、我が研究所(ブログ)でも紹介してきた「生き物の公式」や「パイこね変換」、「単振動振り子」に加え、二重振り子の「カオスマン」などが登場する。しかし、これは、いたるところに「カオス」という現象が潜んでいるってことをわかってもらうための、前菜とゆーか、前フリ。

 カオス工学の第一人者、合原一幸センセは「アナコン(アナログ・コンピュータ」の復権を唱えている。デジタルコンピュータは、常に有限精度の数値計算という足枷がある。円の面積(解析解)は「πr^2」だが、実際に計算するときは、πを「3.14」とか、もっと精度が欲しければ「3.141592654」と有限精度の数値に丸めて近似解を計算する。一般的な用途としては、これで十分だが、初期値鋭敏性を持つ「カオス」では、まったく異なった結果になる。

 合原一幸センセは、アナログ・コンピュータを作って、カオスの研究をしているんだよね。もともと、デジタル・コンピュータと言っても、情報伝送路は、アナログ回線。半導体素子を使って、ある一定の電圧以上で電気が流れるときを「1」、閾値以下で電気が流れないときを「0」として、デジタル化しているんだけれど、CPUの発熱によって、暴走することがある。アナログ・コンピュータでは、これが徐々に表れるみたいだ。ドライヤーの熱風で温めると、波形が乱れ始め、冷風を送って冷ますと、また元に戻る^^;

 で、番組では、爆笑問題の二人と、アナログ・コンピュータが、動物園の檻に動物たちを入れるパズルで対決する。ただ、動物を入れるだけでなく、動物どうしの相性があって、トラとウマは、できるだけ離れた檻に入れるなどのルールがある。サラリーマン巡回のような問題で、これといった有効なアルゴリズムがなく、コンピュータが苦手とする分野だが、爆笑問題よりも良い、そこそこの成績を収めた。けっして最善の組み合わせを解答するわけではないが、「そこそこ」の結果を求めることができる点が、興味深い。

合原一幸センセの「カオス」による新しい視点
(1)ホメオスタシス(Homeostasis)から、ホメオダイナミックス(Homeodynamics)へ。
(2)制御(Control)から、ハーネシング(Harnessing)へ。
(3)確率的予測から、決定論的予測へ。
(4)Z上の計算からR上の計算へ。

(1)ホメオスタシスは「恒常性」とも訳されるけれど、生命が、その内部や外部の変化に対して、生命を維持するため一定に保とうとする力のこと。ホメオダイナミックスとは、生命はダイナミックスに動いており、その動きの中で捉えていこうという考え方。

(2)ハーネシングは、「荒馬を乗りこなす」という意味があるそうで、カオスをコントロール(制御)するのではなく、乗りこなしていこうという考え方。

(3)カオスの特徴として、長期予測不可能性があるが、短期では予測が可能である。カオス理論は、不確定な経済の予測などにも用いられているが、確率的な予測ではなく、カオスを用いて、決定論的予測をしようとする動き。

(4)Z(Zahlen:整数)上の計算というのは、デジタル・コンピュータの手法で、整数や整数の比で表すことのできる有限な精度を持った数値の計算のこと。いっぽう、R(Real Number:実数)上の計算というのは、合原センセが行っているアナログ・コンピュータの計算だ。つまり、アナコンの復権ということね。

脳を創る男
脳を創る男 合原 一幸
(爆笑問題のニッポンの教養 27)

太田 光/田中 裕二/合原 一幸/著
講談社 (新書 2008/10/21)