■書籍:地図男

地図男
地図男
(ダ・ヴィンチブックス)

真藤順丈/著
メディアファクトリー
1200円(税別)

 百科事典のような大判の地図帖には、どのページの余白にも、びっしりと細かな文字が書き込まれている。それだけでなく、付箋や紙端がわしゃわしゃと貼られていて、閉じることもできないほど、分厚くふくらみ、はみ出している。その地図帖を抱え、関東地域を漂浪し、あちこちに出没する「地図男」とは? そして、地図男の紡ぎ出す物語とは……。

 文体のリズムが心地よく、地図男の妄想とも現実ともつかぬような物語に引き込まれ、一気に読んでしまった。

 で、付箋や写真、情報がわしゃわしゃと貼り付けられている地図といったら、「Google マップ」である。地図を眺めていると、いろいろなことに気付く。たとえば、目黒不動尊は有名だけれど、他にも、目白不動、目赤不動、目青不動、目黄不動があって、この「五色不動」が円を描くように配置されていることがわかる。五色の不動尊が守っているのは、その中心にある皇居だ。

「その他」で「写真」にチェックを入れると、「地図男」の地図帖といった様相を呈してくる。

五色不動(Google マップ)

五色不動

 地図に物語を書き込んでいくという発想は、ガスコン研究所の過去記事(2007年4月)

踊る Google 経路検索:アクアラインを通過せよ

の中で、全2話のミステリー小説^^;「Google Maps 断崖絶壁めぐり殺人事件」を紹介した。

 今回は全11話の新作「ロールオーバーGの伝説」をお届けしよう^^;

ロールオーバーGの伝説

ロールオーバーGの伝説

(※ブログ内に表示すると狭いので、上の画像をクリックして、Googleマップでみてね)

 で、上の「ロールオーバーGの伝説」の中で、東京都の木「イチョウ」にちょこっと触れているけれど「東京の市町村章」というのがあり、23区には、区章がある。「地図男」の地図帖には、この区章を賭けての戦い、思わず噴き出してしまうような、マンガちっくな話もある。

東京都の市町村章

擬宝珠ジジイ

(※頭に中央区の区章を刺青した「擬宝珠ジジイ」/ガスコン爺・画)

 主人公は、映画製作会社の助監督だが、おもな仕事といえば、映画のロケ地候補をいくつか探しておく、いわゆるロケハンってやつ。地図帖に書き込まれた物語の断片と、「地図男」の物語、主人公の「俺」の物語が交錯して、入れ子になって、フラクタルのような不思議な世界が描き出される。

全国ロケ地図

 作者の「真藤順丈」は1977年生まれ。「地図男」を生んだ発想の一端には「Googleマップ」があったんじゃないかと、爺は思う。携帯でカシャカシャと風景を切り取り、人生を切り取り、それをマップにぺたぺたと貼り付けていったら、それこそ、雑多な情報に溢れ、混沌とした世界になるだろう。「地図男」は、そのカオスの中から語り部として物語を紡ぎだす。なぜなら、人間は物語に餓え、物語を求め、物語を必要としているからだ。

 物語が輻輳する点で、「陰日向に咲く」を爺は思い出したんだけど、「陰日向に咲く」は、一見シュールな感じを抱いても、結局は、昔の人情話的な湿っぽいベクトルに収束していくのに対して、「地図男」は、苛立ちや怒り、哀しみといった感情も乾いているんだよね。だから、「地図男」は漂浪者であるが、髭はちゃんと剃り、重ね着はしているが、不潔感はない。浮浪者のような、すえた臭いはしない。ウェットじゃないんだよね。

 爺が妄想するのは、液体窒素に入れたバラの花がパラパラと崩れる落ちるように、その断片が「地図男」が抱えている国土地理院の大判の地図帖に貼り付いているんだな。言ってみれば、物語のフリーズドライだ。物語の世界も妙に乖離した非現実感が逆に現代的でリアルみたいな……。2008年9月の刊行だが、爺が手にした本は、すでに第3刷。この本が売れないワケがないよな。

地図男
地図男
(ダ・ヴィンチブックス)

真藤順丈/著
メディアファクトリー
1200円(税別)


“■書籍:地図男” への2件の返信

  1. 《コメント》ガスコン
    Google Japan Blog (2008年11月4日)の記事で「マイマップの公開設定」の確認を呼びかけている。
    http://googlejapan.blogspot.com/2008/11/blog-post.html
    なぜ、このような記事が出たかというと、名古屋の病院が患者80人の氏名や住所、電話番号など、個人情報をGoogleマップの「マイマップ」で公開しちゃったり、静岡県の小学校の児童34人の名前や住所が「マイマップ」で公開されるなど、とんでもないミスが起きていたからだ。
    病院の担当者は「地図を作製する際などにはパスワードが必要なため、秘密は保たれていると思っていた」と話したそうな。学校のほうは、マイマップを作成したときは、「非公開」にしたはず……と否定しているんだけれど、たぶん、勘違いか、単純ミスだと思われる。
    企業ならば、セキュリティに気をつかっているはずだが、なんと、ゲームメーカーの「セガ」が、アルバイトスタッフ応募者115人の名前、住所、生年月日、現在の職業、志望動機など個人情報を公開していたという。
    「マイマップ」を作成するとき「公開」と「非公開」を選べるんだけれど、デフォルトは「公開」になっているんだよね。で、「非公開」に設定しても、記事中の「ロールオーバーGの伝説」でわかるとおり、URLがわかれば、誰でも閲覧することができる。非公開のマイマップにリンクを貼ると「限定公開(URLで共有)」という表示になるのがおもしろい。
    Googleの検索では「非公開」のマイマップは表示しないようにしているみたいだけど、検索エンジンは、何も、Googleだけではない。他の検索エンジンでは、情報を拾って来ちゃうことも充分考えられる。
    以前にも「Googleカレンダー」で、これと似たような設定ミスによる事件が新聞などで報じられたことがあったよね。いずれにしても、誰かに見られたら困るような情報を、公共の場であるネットに置くこと自体が非常識だ。
    ネットを個人のストレージ(記憶媒体)として使うメリットは、たくさんある。自宅のパソコンや、HDDが壊れてしまっても、あるいは、地震や火事などの天災に見舞われても、ネットの情報は残る。自宅に現金を置かず、銀行に預けるようなものだ(安全が担保されていると信用できるから預けられる)。現金を公共の場である公園にたまたまあったダンボール箱の中に入れておく人なんていないはず(何十憶という現金をプレハブの物置小屋に隠し持っていた人はいたけどね^^;)。
    Googleの「マイマップ」は、そもそも「地図と情報を結びつけて、みんなで共有して楽しもう」という趣旨なのだから、「公開」が前提なのだろうけれど、こういった事件の度に、まるでセキュリティに問題があるかのように報じられるのなら、せめて、デフォルトを「非公開」にしておくぐらいの配慮が必要かもね。
    日本は、インターネットに接続できる人口割合が世界一だそうだけど、ネットを読み書きするリテラシー、あるいは、常識が常識として通用するには、まだまだなのかな……。

  2. その後も、青森県八戸市と、名古屋市、岡山市の小学校などで、児童の個人情報が、グーグルマップで「閲覧可能」になっていたことが発覚した。
    小学校の先生たちに、Googleの「マイマップ」は、そんなに人気なのか? と、思ってしまうのは、爺だけ?
    と同時に、一部、小学校の先生方の情報リテラシーの低さも、露見された感じ;;(もちろん、ほんの一部の先生方ですよ)
    ところで、上のコメントで、爺は、
    > 非公開のマイマップにリンクを貼ると
    >「限定公開(URLで共有)」という表示に
    > なるのがおもしろい。
    と書いているが、これは、爺の間違い。以前の「非公開」という表記は、誤解を招くとして、Google側では「限定公開(URLで共有)」という表記に変えたようだ。
    爺が「マイマップ」を作成したとき、ちょうど、その変更の狭間に遭遇しちゃったみたい^^; 現在では「非公開」という表記は使わず、「限定公開(URLで共有)」の表記で統一されているみたい。

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