■書籍:数学ガール フェルマーの最終定理

 多くの「数学ガール」の読者が待ち望んだ、第2弾。また「僕」、ミルカさん、テトラちゃんと一緒に数学することができるのだ。

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 前作の「数学ガール」に引き続き、爺は、いちはやく出版前の原稿を読むことができる「レビューワ」という名誉を授かることができた。まるで、朝露に濡れた野菜や果物を、その場でもぎって食べるような贅沢さだ。結城さんに感謝。本書は7月30日刊行だから、だいぶ紹介が遅れてしまったが、もったいなくて、まずは、爺の気持ちの高ぶりが落ち着くまで、少し時間が欲しかったのさ^^;

「数学ガール フェルマーの最終定理」

    プロローグ
    第1章 無限の宇宙を手に乗せて
    第2章 ピタゴラスの定理
    第3章 互いに素
    第4章 背理法
    第5章 砕ける素数
    第6章 アーベル群の涙
    第7章 ヘアスタイルを法として
    第8章 無限降下法
    第9章 最も美しい公式
    第10章 フェルマーの最終定理
    エピローグ

 もう、章タイトルを見ただけで、わくわくしちゃうけれど、まだ、本書を読んでいない人に、なんの予備知識なしで、その感動を味わってもらいたいので、あえて、本書の内容には触れない。ここでは、レビューワとして書かなかったことに、ちょこっと触れたい。

 結城浩は「数学書」と「物語」を足し算することで、新しい「数学ガール」の世界を築いたわけだが、このどちらか一方が欠けても「数学ガール」は成り立たない。重要なのは、そのバランスだ。「物語」だけを取り出したら、うす味だが、いちばん旨味を引き出しているように思う。これ以上、味を濃くすると、読者は「物語」が気になり「数学」に集中できない。「数学ガール」は、そのバランスが見事で、じつにいい塩梅なのだ(塩分濃度が薄過ぎても、濃く過ぎても、旨味は減少する。塩分濃度と旨味を感じる関数グラフから、微分すると、いい塩梅になる。というのは、あまりに無粋というもの)。

 でも、それが計算尽くされていることは、たとえば、「数学ガール」には、「僕」以外、男性が登場しないことからもわかる。「そんなことはない、いつも問題を出してくれる村木先生がいるじゃないか!」という人は、すでに、結城浩の術中にはまり、あなたの頭の中に村木先生のイメージが出来上がっている証拠だ。「僕」やミルカさん、テトラちゃんたちによる間接的な描写はあるが、実際に村木先生が登場し、何か言葉を発しているシーンはないのだ。そのために「数学ガール」では、村木先生から問題の書いてある「カード」をもらう仕組みになっている。だけど、瑞谷女史は、ちゃんとセリフがある^^; 「僕」のお母さんは登場するけれど、お父さんは登場しない。今回は病院のシーンもあるのだが、徹底しているのは、女性の看護師のセリフはあるが、男性の医師や看護師は登場しない。

 余談だが、「釣りキチ三平」の作者、矢口高雄のインタビューで、「主人公の三平くんは、まだ子供ですけれど、学校には行っていないんですか?」と聞かれ、矢口氏は「学校にはちゃんと行ってますよ。ただし、三平の授業風景を描いても、おもしろくないでしょ」と答えていた。

 つまり、「釣りキチ三平」の伝でいくと、「僕」の高校生活や、日常的な生活の中では、まわりにたくさん男性はいるけれど、読者は、そんな会話を聞いてもおもしろくないでしょ。ということになる。だから「数学ガール」では、他の教科も含め「数学」の授業風景が描かれることもない。授業の「数学」よりも、もっとおもしろい、放課後の「数学」があるのだ。つまり、エッセンスだけを抽出する「引き算」の方法論だ。

 何を書いて、何を書かないかということは、簡単そうに見えて、じつは作者が明確な意思を持っていないと難しいことなのだ。

 爺は、この記事のように、いつも何を書くべきか、何を書かないでおくべきかの判断を完全に間違っている><;

 酩酊状態だが、これだけは書いておこう。「数学ガール フェルマーの最終定理」は、章立てを見てもらえば、わかるように、プロット(筋書き)が「お見事」のひと言に尽きる。すべては、大団円で結びつくのだ。

 爺はゲームが大好きだが、今回の「数学ガール フェルマーの最終定理」のラスボスは、言うまでもなく、「フェルマーの最終定理」だ。「僕」やミルカさん、テトラちゃん、そして、今回は「僕」の従妹、ユーリたちとともに「数学」RPGが始まるのだが、このパーティに、ひとりだけレベルの違う爺が紛れ込んだとしても、おいてけぼりを喰らう心配はない。正直言うと、じつは、ミルカさんや、「僕」の使う数学の呪文は、爺にはちんぷんかんぷんなところもあるのだけれど、不思議なことに旅を続ける妨げにはならないのだ。恐るべし、パーティシステム^^;

 ひとつひとつのクエストを達成することで、まるで、自分が「数学」に対して、強くなったような気分を味わうことができる。自分では入手できないような強い「数学」の武器を手に入れ、ステージごとのボスキャラを倒したような気分になるのだ。そして、なによりも、この旅は、じつに刺激的で、謎を解く愉しみがあり、予想を超える発見があり、「数学」の美しさに感動し、旅すること自体が楽しい。

「数学ガール」は、数学の問題をやさしく解説する参考書ではない。数学の楽しさを伝える伝道書、数学の美しさを説く啓蒙書なのだ。

 しかし「谷山・志村の定理における『楕円曲線』」は、爺にとっては、『ゼルダの伝説』における「ゴーマの目を狙え」だ^^; なんのことだか、わからないけれど、がんがれ!<爺

 爺が作成したFlash「世界のナベアツ:素数のときだけアホになる」で、最後まで見ると、「オモロー」ならぬ、「あまりは、モジュロー」となるのだが、最後のメッセージは「楕円曲線はモジュロー」にしておけばよかった^^;<意味不明;;

Mathematical_girl01
数学ガール
結城浩/著

Mathematical_girl02
数学ガール
フェルマーの最終定理

結城浩/著