■書籍:文系のための数学教室

 このブログの過去記事で何度か、小島寛之センセの「文系のための数学教室」について触れてきたが、ちゃんと、エントリを立てて紹介していてなかったので、今更ながらに書いてみるなり。

 問題:直角三角形が4つある。これらのうち、2つの直角三角形を組み合わせて作ることのできる図形、4つすべての直角三角形を組み合わせて作ることの図形を、できるだけたくさん、作りなさい! 図形は重なり合ってもよい。

 ドラッグ&ドロップで図形を移動。左回りの回転は[Z]キー、右回りの回転は[X]キー。[Shift]キーの併用で「15度」刻みで回転する。左右反転は[C]キー、上下反転は[V]キーを使用する。

 著者(小島寛之センセ)は、経済学者にあって、数学者でもあるわけだが、塾の講師をしていたこともあって、その実践的体験の中で、上の問題を20人程度の生徒に出したそうな。授業では「厚紙」を使ったが、ここでは、それを「Flash」に置き換えた。

 問題といっても、正解があるわけではない。思いつくまま、図形を作ればよい。すると、子供たちは、さまざまな図形を作った。似通った形を分類すると、以下のようになった。

Innate_01

 これらの図形を見ると、図形の性質、たとえば「二等辺三角形の底角は等しい」「二等辺三角形の頂点からの垂線は、底辺の中点に落ちる」「平行四辺形の向かい合う角は等しい」「長方形の対角線は等しい」「等脚台形の底角は等しい」「たこ形の対角線は角を二等分する」などがぞろぞろ出てくると、小島センセは言う。

Innate_02

 さらに4つの直角三角形を使った図形を見てみよう。定理(i)は、「ひし形の対角線は直交する」という定理だが、図から、ひし形の面積は「対角線×対角線÷2」で求めることができることもわかる。定理(ii)は、「等脚台形は直角三角形と長方形に分割される」を意味する。台形の面積を求める問題などでは必須の知識だ。

Innate_03

 定理(iii)は「中点連結定理」と呼ぶらしい。よーするに、「三角形の二辺の中点を結ぶと、残りの一辺と平行になり、長さは半分になる」というもの。定理(iv)は、小島センセの言うところの、ちょっとマニアックな「直角三角形の中線定理」で「直角三角形の斜辺への中線の長さは、斜辺の半分になる」を意味する。幾何の難問を解き明かすときに、ときどき使われると言う。

 定理(v)は、円周角の定理だ。図を眺めれば「円周角は、中心角の半分になる」ことがわかる。

Innate_04

※注意:爺の作ったいいかげんなFlashでは、この定理(v)を作ることができない(ドラッグ&ドロップをした際に一定間隔のグリッドに吸着するように直角三角形のピースを配置しているため、隙間ができてしまう)。

 「じつは、これで、中学で習う幾何の法則は、たった1つを残して、すべて出てきてしまいました」と小島センセ。生徒たちが思い思いに作った図形の多くが幾何の法則を表している。この授業を通し、小島センセは、「幾何の法則は、君たちの心の中にすでに住みついていると考えていいのです」と伝える。

 さて、中学で習う、残されたもうひとつの幾何の定理は、言うまでもなく「ピタゴラスの定理」だ。図は正方形の中に4つの直角三角形が配置されている。小さい緑の正方形の面積は(a^2)、もうひとつの緑の正方形の面積は(b^2)だ。このふたつの正方形を足し合わせた面積を持つ、ひとつの大きな正方形を作りなさい。

 緑の部分の面積は、全体の正方形(枠内)の面積から4つの直角三角形の面積を引いたものなので、直角三角形をどこに移動させても、重ならない限り、緑の部分の面積は一定だ。とゆーわけで「a^2+b^2=c^2」という「ピタゴラスの定理」が証明されるわけ。

 このような、「数学」や「数概念」、「図形認識」を我々は、「すでに生まれながらにして自分自身の中に持っている」という考え方は、小島センセだけでなく、著者が師と仰ぐ、経済学者、宇沢弘文氏は「インネイト」という言葉で表現する。

 小島寛之センセにとっての「数学」とは、「能力テスター」でも「コンビニエイトなテクノロジー」でもなく、ましてや「神との対話の道具」でもないと説く。「私がここにこうしている≪存在≫の証である」と締めくくる。

 本書「文系のための数学教室」は、2004年11月初版発行だが、この「インネイト」という考え方をさらに推し進めたのが、「数学でつまずくのはなぜか」(2008年1月刊行)だ。もし、あなたが「数学でつまずくのはなぜか」をまだ読んでいないとしたら、「文系のための数学教室」→「数学でつまずくのはなぜか」という流れで読むことをおススメしたい。

Kojima08
文系のための数学教室
小島寛之/著
講談社現代新書1759
価格:720円(税別)

Kojima06
数学でつまずくのはなぜか
小島寛之/著
講談社現代新書1925
価格:720円(税別)