陰日向に咲く

 今更ながら「陰日向に咲く」を読んだ。帯には「43万部突破!」とあり、奥付を見ると「第16刷」だった。8月の時点で、すでに「50万部」を超えているそうだから、まだまだ売れ続けているのだろう。

 「陰日向に咲く」というタイトルどおり、この小説は社会からは日陰に住む人たちが入れ替わりに登場する連作小説で、ちょうど日陰の中に、ぽっかりできた小さな陽だまりのような暖かさを感じさせる人間模様を描き出している。

 劇団ひとり(川島省吾)は、パイロットの父と、CA(キャビンアテンダント)の母を持つ、おぼっちゃまで、父の仕事の都合で小学校時代をアラスカ、アンカレッジで過ごした、いわゆる帰国子女だ。「ボキャブラ天国」の頃、「スープレックス」という漫才コンビでデビューしたが相方が失踪してしまったため、ピン芸人「劇団ひとり」が誕生した。さまざまなキャラクターを演じ分ける、たったひとりの劇団だが、その団員(キャラクター)は、すでに百人に及ぶという。つっぱり亭津田沼 、ミサイル堀口、満田丹五郎、ウォンチューレンなどなど団員には、ひとりひとりに名前がついている。「24人のビリー・ミリガン」のように多重人格障害ではないにしても、こちらは「100人の劇団ひとり」だ。

 さまざまな人物が登場する連作小説なので、その点では舞台のネタを作るのと同じなのかもしれない。読み始めると、とまらなくなり、いっきに読ませてしまう。構成が巧みで、ひとつひとつ、ばらばらの真珠の玉に一本の糸を通すことで、見事につながり、首飾りが出来上がるような……。あるいは、ひとつひとつのピースを組み合わせて、ジグソーパズルを完成させたときのような、爽快感がある。作者の術中にはまり、思わず「ニヤリ」としてしまうシーンが何箇所もある。

 三谷幸喜が何かの番組で「期待外れにつまらないというのが、脚本としては最低で、次に期待どおりにおもしろいが真ん中、そして期待外れにおもしろいというのが最高。脚本家としては最高を目指したい」と語っていたが、「陰日向に咲く」は、まさしく期待外れにおもしろい。初の書き下ろし小説がベストセラーになり、「次はコケそうでしょ。だから書きません」と本人は言うが、みんなの期待とプレッシャーを背負いつつ、次回作をぜひ書いてほしい。

陰日向に咲く
陰日向に咲く

著者:劇団ひとり
販売元:幻冬舎 (2006/01)

都会のナポレオン
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販売元:ソニーミュージックエンタテインメント
発売日:2004/09/23

都会のシェイクスピア
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発売日:2006/09/06